閉じる

文法は完璧なのに「不正解」になる理由 神は「them」の一文字に宿る

こども未来フェス"
こんな方におすすめ
  • 受験生・保護者: 「なぜか点数が伸び悩む」の正体を知りたい方へ
  • 教育・指導者: 公立入試の「作問の美学」に触れたい方へ
  • ビジネス・一般: 文脈を読み解く「観察力」の重要性を再確認したい方へ
#群馬県公立高校入試 #思考力 #文脈の読解 #作問の妙

 入試問題とは、単なる学力測定の道具ではありません。それは、出題者がその教科に捧げてきた情熱と、受験生への期待が火花を散らす「知的な果し合い」の場でもあります。  
 平成23年度の群馬県公立高校入試。その英語「大問6」を解いた瞬間、その作問の見事さに私は背筋が伸びるような感覚を覚えました。

Mr.White:今日はその歌をどれくらい練習したのですか。
Kumi:For two hours.

文脈という名の「心憎いトラップ」

 そもそも英作文を対話文の中でやらせるには、出題する側にそれなりの意図がないといけません。なぜなら独立した英作文の問題と違い、対話文には「文脈」が存在するからです。文脈にまで気を配れた者のみが正答にたどり着ける。そんな性質の問題こそ、良問の名にふさわしいと思います。

 さて、この問題の秀逸なポイントの一つは日本語部分に主語が提示されていないことです。付け焼き刃的に「~は」が主語だなんて勉強をしてきた受験生は、真っ先に「今日は」に反応してしまうかもしれません。出題者も心得ていて、あえて「今日、その歌を」とせず「今日はその歌を」にしたはずです。実に心憎いトラップです。

 じゃあ、主語は何かを考える必要があるわけです。実は直前の文で「we」が主語になっており、それを受けてのホワイト先生の質問だから、主語を「you」に据えることに気づかなければいけないのです。人称に対する理解が甘いとKumiを主語にしてしまうおそれもあります。これが「対話」の一部であり、話し手であるホワイト先生とクミが対面している状況までくみ取らなければならないわけです。

英語が得意な子ほど沈む「them」の深淵

 その後のKumiの答えも、”We practiced it for two hours.” と親切に提示せず、”For two hours.” のみ。解く側に、揺るぎない文法力を要求した出題です。How long 〜? を選んだセンスも素晴らしい。中学生にとって簡単な疑問詞のようでいて、実は定着が甘いのがHow long 〜? だあからです。その辺りを出題者氏は完全に見通しているのです。

 この問題を見ていて、私は平成11年の群馬県入試を思い出しました。そこにもまた、唸らされる一問がありました。

Robert:・・・彼の詩は多くの人々に愛されています。
Yoshiko:I want to read them some day.

 生徒に解かせると、例年、こう書く答案が圧倒的です。  

 His poem is loved by many people.

 この解答、文法的にはまったく瑕疵(かし)がありません。しかし、厳密な採点の現場ではおそらく減点対象になります。実際に演習させて、丸が付かないと「え? なんで?」と英語が得意な子ほどそんなリアクションをします。 だから、授業で扱うには面白い問題です。

 ポイントは、これが「対話文に埋め込まれた英作文だ」ということです。ロバートの発言を受けて、ヨシコは “I want to read them some day.” と答えています。ということは、前の文の主語が複数形でなければ、この会話は成立しないわけです。

 正答は、His poems are loved by many people.  

公立入試という名の「制約」が生む芸術

 高度な語彙を要求するわけでもなく、それでいて、英語が得意な子たちも次々と間違えていく。これこそが公立入試における「良問」の模範です。

 公立高校の入試問題は指導要領の枠内を守らなければなりません。そして、すべての高校で同一の問題を使って入試を行います。進学校に寄せれば全体の平均点が30点台になる可能性もあるし、易しくすれば進学校で差がつかず入試問題として機能しなくなります。受験生の学力、弱点、そして思考のクセを熟知し、そこに正確な球を投げられる出題者氏。その辣腕に、私は心からの賞賛を送りたいと思います。知識ではなく観察力、読解力を働かせないと正答にたどり着けないこの手の問題には毎年唸らされます。

かな

ショート動画でゆるーく暗記できるTikTokチャンネルだよ! フォローしてね!

URLをコピーしました!